大森靖子「TOKYO BLACK HOLE」




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メッセージ・ソング。

“わたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ”と「マジックミラー」で歌う大森靖子氏。今まで衝動のままに歌ってきて、偶発的にそれがストレンジャー達を呼び寄せたきらいがあるけれど、ここでは自覚的にストレンジャー達(とりわけ女性の)、その孤独を救い上げて、そのLIFEを肯定していこうとするストレートな意志を感じる。とすると自分みたいなキモいやつは“聴き手を肯定してしまう歌詞”に、ついつい身構えてしまうけれど、“痛みがわかるよだなんて弱い正義で今宵射精”、“絶対安全ドラッグ この歌あたしのことうたっている 気持いい E E E あーん”とそこへの牽制もちゃんと忘れない。

そもそもこの前のインストア弾き語りライブでこの人の作るメロディは頭一つ抜けてキャッチーで、歌詞にしてもそのメッセージ以上にワードチョイスのおもろさが中毒性高めてる。先述の“絶対安全ドラッグ”にしてもそうだし、“福澤諭吉と朝までにゃんにゃん”や“詰め放題2000円のお得な天使”もいい。

また比較的、音数が絞られている「TOKYO BLACK HOLE」、「マジックミラー」は出色の出来のトラック。表題曲でもある「TOKYO BLACK HOLE」は“見晴らしの良い地獄”で街灯を眺めながら、“はたらくおっさんで ぼくの世界がキラキラ/人が生きてるって ほら ちゃんと綺麗だったよね”と“やるせなさ”を抱えたままで希望を見出す素敵なフォークロック。キョーレツに色鮮やかなTOKYOで絶望を歌った盟友うみのてと好対照…というかこの曲聴いて最初思い出したのが、うみのてとコートニー・バーネットだったりするタイプのヲタクです。

アルバム後半になるにつれ音数は増え、J-ROCK的アヴァンギャルドな曲(具体的にいうなら「劇的JOY!ビフォーアフター」~「ドラマティック私生活」)が続く。正直、胃もたれを起こしてしまう部分もあるけれど、そのあとのカーネーション直枝氏とのデュエット「無修正ロマンティック~延長戦~」でムーディーにリラクシン。そして直枝氏ってダンディーで美声だね、と改めて認識した。
そして続く締めの名曲2曲「給食当番制反対」、「少女漫画少年漫画」は学園モノということで鈍色の青春に光が射してくるような、ただ晒してるだけのような、とにかく曲としてはカタルシスに満ちたミディアムナンバー。3rdアルバムという感じがする(実際は4thくらい)。

さっきも言いましたが、アルバム通して聴くと結構しんどいですが、未だ無条件に聴き手を肯定してはした金を稼ぐ音楽にあふれ、逆に開き直ってシュールな世界に逃げ込んだつもりで“つまらないおもろさ”を振りまく音楽にもノれなくて、うんざりしてる中でストレートなメッセージ・ソングを聴いたら、もしかしたらぼっちはぼっちのままで、やるせなさは消えないままで、マンガやゲームの影響で妄想しながら、前を向いていけるかもしれない。

だって全曲シングル曲っぽい作りでパワフルに聴こえるし。